Column

世界の海辺

第1回
アメリカ・ロードアイランド州
ニューポート

矢部 洋一 [ヤベヨウイチ]

1957年11月11日生まれ。海をフィールドとしてヨット、ボートの写真撮影を中心に、国際的に活躍するフォトグラファー。写真だけでなく、記者、編集、翻訳などの仕事を精力的にこなす。
●株式会社 舵社・チーフフォトグラファー
●有限会社 オフィスイレブン代表取締役
●英国王立オーシャンレーシングクラブ誌「シーホース」特約記者

ニューポートはヨットの街である。アメリカにおけるヨットのメッカとされている。場所はアメリカ北東岸、ニューヨークとボストンとのほぼ中間に位置する。車を使えばどちらの大都市からも渋滞なしでおよそ3時間の距離だ。

昔は軍港として重要な役割を果たしていたが、今ではその面影はやや薄れ、夏の海岸線はヨットやボートに埋め尽くされる。軍港というのは通常天然の良港、つまり自然が創り出した安全な泊地に作られる。ニューポートも外海と風から守られた穏やかな入り江に開けている。

ここは人気の高い観光地でもある。観光客の一番のお目当てはマンションツアー。マンションという言葉は、日本ではちょっとグレードの高い集合住宅という意味で使われているが、英語では、城のように広壮な大邸宅を意味する。

1900年代の初め、ニューヨークに住む大富豪たちがこぞってニューポートに別荘を建てた。彼らはその別荘を「サマー・コテージ」(避暑地の小屋)と呼んだそうだ。そのコテージは、門から車入れまで十分な距離のある、広大な敷地に建つ石造りの豪邸で、多くは海際にまで美しい芝生に覆われた敷地が延びているというものだ。

映画に「華麗なるギャッツビー」というのがあったが、まさにあの世界でる。これらのお屋敷のいくつかが現在では公開されたり、ホテルになったりしていて観光客に人気を呼んでいる。

豪邸を持つ富豪たちの多くはヨットも楽しみのひとつとしていた。彼らはニューヨークからニューポートの別荘へ自分の豪華ヨットでやって来た。自然、これらのヨットを修理したり管理したり、新しく設計、造船したりという需要が高まり、ニューポートにはヨット関係の産業が栄えていった。

そして当時、ニューポートで行われていたのが「アメリカズカップ」というヨットレースだった。1851年、イギリスに起源を持つこのレースは、現在も続くヨット界最高峰のレースのひとつだ。もともとはニューヨークで行われていたが、ニューヨーク・ハーバーは商業港として船の往来が増えたために、1930年、ニューポートに開催地が移された。以来、1983年までの53年間、合計12回のアメリカズカップがニューポートで行われた。とりわけ華やかだったのは1930年代にJクラスボートという全長が100フィートをゆうに超える大型の美しいヨットによってアメリカズカップが戦われていた時代だった。

鉄道王として知られるバンダービルトなどがこの時代に船のオーナー兼スキッパーとして活躍している。

アメリカズカップはニューヨークで開催されていた時代を含めて132年間ニューヨークヨットクラブ(NYYC)が保持し続けた。ニューポートにはNYYCの豪壮なクラブハウスあり(本部はニューヨーク)、今でも富裕なアメリカ人たちの集う社交場になっている。一般公開はしていないプライベートクラブだが、メンバーの紹介があれば入ることができる。ここから湾越しにニューポートの街を望む景色は悪くない。

ニューポートでの滞在はB&B(ベッド&ブレックファスト)か、あるいはマンションを改造した海を臨むホテルというのがいい。そして早朝、岬に沿って作られている散歩道(ボードウォーク)を歩く。潮風に吹かれ、ヨットやマンションを眺めて深呼吸でもすれば、その日が良い一日となることは間違いない。

そうそう、有名なニューポートジャズフェスティバルも夏にこの街(湾の入り口にあるアダムス要塞跡の公園が会場)で行われていることも忘れてはならない。このフェスティバルを描いた「JAZZ ON A SUMMER'S DAY」(1959年)という映画は秀逸だった。www.gonewport.com

2004年09月20日

ちょっと足を伸ばす。 ニューポートまで出かけたならば、その南、車で1時間ほどのところにあるミスティックシーポートという町にもぜひ立ち寄りたい。そこには、アメリカ屈指の海洋博物館「ミスティックシーポート・ミュージアム」がある。ここは船の文化のテーマパークであり、また真面目な研究機関でもある。19世紀後半の港町を再現した園内は実物の木造船が浮かび、実際に乗船したり、当時の船職人たちの仕事の様子を見学できるようになっている。ディズニーシーよりも数倍面白い、と私は思う。


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ニューヨークヨットクラブから見渡すニューポート・ハーバー。写真奥から右手にかけてがニューポートの街。手前、石の島の上に立つ小さな建物はアイダ・ルイス・ヨットクラブのクラブハウス

写真奥、芝生の続く丘の上に立つのがニューヨークヨットクラブ。海にはクラブ専用の桟橋が伸びている。フラッグポールに掲げられている星条旗が半旗になっている。撮影をした時、アメリカはちょうどロナルド・レーガン元大統領の喪に服していた

ニューポートにはクラシックなヨットが良く似合う。そしてどの船もがぴかぴかに磨きこまれ、手入れが行き届き、美しい帆走の姿を見せてくれる

ヨット文化の伝統を守るために設立された「インターナショナル・ヨット・レストレーション・スクール」。木の船を造り、また修理維持する職人を養成し、またその技術を一般に伝えるために設立された学校で、ニューポートにある。外国人にも開放されており、職人志望だけでなく、ちょっと学びたいという一般の人たちにも人気がある

ロブスター漁船とヨットが共存するニューポート。バターソースで食べる肉厚のロブスターは濃厚な滋味に溢れる

19世紀後半のアメリカの港町を再現したミスティックシーポートの園内。
www.mysticseaport.org