Column

世界の海辺

第25回
キューバの海
その2

矢部 洋一 [ヤベヨウイチ]

1957年11月11日生まれ。海をフィールドとしてヨット、ボートの写真撮影を中心に、国際的に活躍するフォトグラファー。写真だけでなく、記者、編集、翻訳などの仕事を精力的にこなす。
●株式会社 舵社・チーフフォトグラファー
●有限会社 オフィスイレブン代表取締役
●英国王立オーシャンレーシングクラブ誌「シーホース」特約記者

乗り合いチャーターヨット「キューバ・ドリーム」(注1)の乗船地は、シエンフエゴスというキューバ本島の南側にある街のマリーナだった。日本から(トロント経由)の国際線が着く首都ハバナは本島の北側に位置しているので、ハバナからシエンフエゴスへは車で移動することになる。島の中央を走るハイウェイを通って3時間半ほどの距離だ。

「キューバ・ドリーム」のクルージング旅程は土曜日夜から翌土曜日朝までの7泊8日となっている。この8日間で、キューバ本島の南西岸に連なるカナレオス諸島をめぐりながら、美しい白砂のビーチやサンゴ礁の海でゆったりと時間を過ごす。

ヨットはカタマランと呼ばれるタイプで、胴体が2つ横に間をあけて並び、中央には広々としたサロンやデッキがある。利点は広さだけではない。船の喫水、つまり水面下に沈んでいる部分が深くないので、水深が比較的浅いところへでも入っていけることと、安定感があることだ。サンゴ礁の海と美しいビーチに近づくにはうってつけの船だ。

客室は全部で6室あって、それぞれにシャワー&トイレがついている。私が乗った10月半ばのクルーズでは、ほかに3組のカップルと母娘3人の家族が乗船した。皆ヨーロッパからの客だ。ちなみに、キューバを訪れる観光客の国別1番は、今のところカナダで、以下イギリス、スペインなどヨーロッパの国々が続く。観光地として開発が進んだカリブ海のほかの島々に比べると、自然を未だに多く残し、人情にも文化にもより深みがあって魅力的なキューバは、ヨーロッパ人にとって非日常を味わえる絶好の目的地のひとつとして人気を保っているのだ。

ヨットにはキャプテンとシェフが一緒に乗り組む。キャプテンのサンチャゴ(「老人と海」の主人公も同じ名前だった)は、キューバ海軍あがりのタフな船長だが、元軍人とは思えぬサービス精神とユーモアと笑顔を持ち合わせている。シェフ兼クルーのホセは、もと大手ホテルで働いていた料理人で、多彩なレパートリーを持ち腕は抜群だ。彼らのもてなしの心は日本人のそれにも決してひけを取らない。二人ともなにしろ一所懸命に客のために働く。キューバという国と、そこに生きる人たちのイメージの目盛りは、彼ら2人と出会ってすっかり良い方に振れきってしまった。(つづく)

注1)http://www.dreamyachtcharter.com

2012年8月30日


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「キューバ・ドリーム」のベテラン・キャプテン、サンチャゴ

腕利きシェフ兼クルーのホセ。釣った魚は見事に料理されて食卓にのぼる

カヨ・デル・ロザリオの白い砂浜。カヨは海面すれすれの小島、サンゴ礁のこと

カタマランヨット「キューバ・ドリーム」をマストの上から見る

カナレオス諸島周辺でよく獲れるロブスターの料理。これは中華風に

「キューバ・ドリーム」の広々したダブルベッドキャビン