Column

世界の海辺

第26回
キューバの海 その3
下船してハバナへ

矢部 洋一 [ヤベヨウイチ]

1957年11月11日生まれ。海をフィールドとしてヨット、ボートの写真撮影を中心に、国際的に活躍するフォトグラファー。写真だけでなく、記者、編集、翻訳などの仕事を精力的にこなす。
●株式会社 舵社・チーフフォトグラファー
●有限会社 オフィスイレブン代表取締役
●英国王立オーシャンレーシングクラブ誌「シーホース」特約記者

2011年10月15日から22日にかけての、乗り合いチャーターヨット「キューバ・ドリーム」7泊8日の旅は、期間中例外的に強い風が吹き続き、曇り空に支配されてしまった。晴れに恵まれたのはせいぜい1日だけ。「この時期にこんな天気は珍しい。自分の経験ではこれまでに一度もない。10月はハリケーンさえ来なければ、快晴で穏やかなのに」とベテランの船長サンチャゴは申しわけなさそうに我々乗船客に言った。しかし客の方は皆ハッピーだった。カナレオス諸島とサンゴ礁の海は曇りでも十分にきれいだったし、サンチャゴとホセのサービス精神溢れる働きぶりには誰もが満足していたからだ。

海図を見ると、キューバ島の周りにはカナレオス諸島のほかにも、「女王の庭」、「王の庭」と名付けられた小島の多い海域がある。この辺も船で巡ったらずいぶんと良さそうだ。これも次の機会のお楽しみである。

「キューバ・ドリーム」を降りたあと、私はふたたび車でハバナに戻った。ハバナは深く広く安全な湾を抱く大きな港町だが、植民地時代から革命を経て現在に至る波乱の歴史を濃密に留めながら、熱帯のバイタリティと創造力をあちらこちらに噴出させている。だから街歩きが楽しくてしょうがない。ハバナに魅せられて、もう10回以上繰り返し来ているという米国人女性は、この街を“一度入ったら出られない美しき牢屋”と表現した。どこにレンズを向けても絵になってしまう写真家のパラダイスと言ってもいい。

ナイトクラブのダンスショーは見事だ。ふらりと入った地元の(観光客向けではない)ジャズバーでは偶然にロベルト・フォンセカという気鋭のピアニストのライブを聴くことができた。しかもとても安い値段で。ハバナでは一日中、退屈とは無縁になる。

もちろん本場のキューバ料理はパワーに満ちていておいしい。もし行くならば、たっぷりと時間を取って。

2012年9月21日


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ハバナ港の入り口。入港する船をモロ要塞から見る。船の向こうが旧市街

ヘミングウェイの愛艇「ピラール」。もと自宅の敷地内に展示されている

ホセ・フステというアーティストが、街全体を作品にする試みをしている

キューバのアーティストの作品を収蔵する国立美術館のひとつ。見ごたえ十分

ホセ・フステのアトリエ兼自宅。訪問時、作家は海外で制作中のため留守だった

国立ハバナ大学の正門前。1940~50年代の米国車が数多く元気に街中を走る

プロのローラー(葉巻を巻く職人)が経営する葉巻の専門店。世界から客が来る