いくつものヨット造船所が集まるイタリア・ヴィアレッジョの細い運河に面した一角に、フランチェスコ・デル・カルロ造船所はある。天井の高い工場に一歩足を踏み入れて、中の暗さに目が慣れてくると、そこには古い木造の船が船台に載せられ、木のマストが横たわり、高く積み重ねられた船用材がところ狭しと置かれているのが次々に目に飛び込んでくる。窓から入る太陽の光がスポットライトのように古い木肌を照らし、ニス仕上げの部材を輝かせる。美しい。木を扱う工場に特有の威厳のようなものがそこには漂っている。

イタリアの職人たちは、日本の職人気質にとてもよく似て、寡黙に、頑固に、品質への飽くなき情熱とこだわりを持って、仕事をする。イタリアらしいのは、仕事が終わってオフになれば、陽気に人生を楽しむ余裕を彼らがたっぷりと持っていることだろう。ものづくりに真剣に携わるイタリア人たちには、まったくもって見事な人物が多い。

フランチェスコ・デル・カルロ造船所の歴史は1963年創業と比較的新しい。創業者のフランチェスコさんは、ヴィアレッジョに古くからある大手造船所で船大工として長く修業を積んだあと、独立して自分の造船所を立ち上げた。そのとき、彼には8歳と2歳の息子があった。幼い時から父親の造船所を遊び場にした兄弟は、今、その家業を継いで、木造船を専門とする数少ない、イタリア屈指の造船所としてより大きく発展させている。次回は古いヨットの修復（レストア）の話を少しします。（つづく）

2014年7月3日