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世界の海辺

第29回 デル・カルロ造船所、歴史を大切に受け継ぐ心

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前回ご紹介したイタリア・ヴィアレッジョのフランチェスコ・デル・カルロ造船所は、現在古い木造ヨットの修復、復元、修理において、ヨーロッパ屈指の造船所のひとつとして知られている。

2007年の初め、この造船所に一隻の古い大型木造ヨットが運び込まれた。

このヨットが造られたのは1936年、第二次世界大戦直前の頃だった。建造したのは、当時品質の高いヨットを設計建造することで世界に知られていたウィリアム・ファイフ&サンズというスコットランドの伝説的な造船所だった。船を発注したのはスコットランド人の兄弟、彼らは自宅から、深い湾の対岸にある仕事場への通勤用にこのヨットを造ったと言われる。しかし、その後兄弟は大戦に従軍して戦死してしまう。彼らの父は、戦後このヨットを手放し、船は何人かの持ち主を経た。名のある設計者の手になる美しいヨットだけに、持ち主の多くは、各界の名士たちであった。

もっとも最近の持ち主は、建築家で優れたヨットマンだった。彼はその船を操って何度も大西洋を渡り、ヨーロッパとカリブ海の間を往復した。

しかしある時、建築家がカリブ海へと向かう途中、ちょっとした衝突事故が起き、マストの1つが折れてしまった。そのヨットを心から愛していた建築家は、なんとかカリブ海の島にたどり着き、そこで自ら、独力で船を直し始めた。

修理すべき個所はマストだけではなく、船体の構造部にまで広範囲に至っていた。その仕事は彼独りの手にはあまり、また資金的にも次第に厳しくなっていく。それに追い打ちをかけるように、熱帯の湿気と太陽光線、そして嵐が容赦なく船を痛めつけていった。美しい船は、時間と共に、見る影もなく朽ちていく一方になってしまった。

しかし、そこに救いの手が差しのべられる時が来た。(次回へ続く)

2014年9月1日

 

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矢部 洋一[ヤベヨウイチ]プロフィール

1957年11月11日生まれ。海をフィールドとしてヨット、ボートの写真撮影を中心に、国際的に活躍するフォトグラファー。
写真だけでなく、記者、編集、翻訳などの仕事を精力的にこなす。
●株式会社 舵社・チーフフォトグラファー ●有限会社 オフィスイレブン代表取締役 ●英国王立オーシャンレーシングクラブ誌「シーホース」特約記者

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