第30回 カリブ海アンティグア島のイングリッシュハーバーで
北緯10度から20度くらいの間に連なるカリブ海の島々は、北米やヨーロッパのヨットマンたちにとっては、冬の間の避寒地として人気が高い。そこは毎年12月から翌4月頃までがハイシーズンとなって、島々はクルーズ船や飛行機でやって来る旅客のほかに、数多くのヨットやボートで大いに賑わう。寒さを逃れて、ヨーロッパのヨットは大西洋を渡り、北米からのは大西洋を南下してやって来る。とはいえ、どちらも決して近い距離ではないので、自力で来るヨットばかりではない。そこで、活躍するのがヨット運搬船だ。運ぶヨットの大きさにもよるけれど、一隻の運搬船で何十隻も一度に運べてしまう。そんな運搬船が商売として成り立つほどに、大西洋というのは東西南北にヨットの行き来が多いのだなあと、感心してしまう。
ヨットがたくさん集まって、そこに気持ちの良い風が吹き、しかも太陽が輝いて暖かいとなれば、「じゃ、競争でもして楽しもうか」となるのは自然の成り行きだ。だから、クリスマス休暇後の1月から4月にかけては、カリブ海の島のいたるところで、さまざまなお楽しみレースが行われる。
アンティグア島は、数ある島々の中でもヨットが数多く集まる場所のひとつだ。毎年4月の半ば頃には、かれこれ30年近くにわたって続くレース、アンティグア・クラシックヨット・レガッタが開催されている。その名の通り、古いヨットばかりが集まって楽しむイベントだ。
さて、イタリアの造船所、フランチェスコ・デル・カルロで修復され現代に甦った1936年建造の木造ヨットの話である。船名は「アイリーン」という。前回、そのヨットはカリブ海の島に着いたのち、持ち主によって独力で懸命な修理が試みられたが、熱帯の激しい気候の中では船の傷むスピードには追いつけず、やがて無念にも放置されるに至ってしまった、というところまでお伝えした。それがアンティグア島だった。この島にはイングリッシュハーバーと呼ばれる深い安全な湾があり、そこには昔、英国海軍(Royal Navy)が基地を設けていた。その湾の奥、マングローブ林の陰にアイリーンは修理半ばでマストも倒れたまま舫われていた。
しかしその後、運命的な出会いが訪れるのだった。(また続く)
2015年1月22日
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矢部 洋一[ヤベヨウイチ]プロフィール
1957年11月11日生まれ。海をフィールドとしてヨット、ボートの写真撮影を中心に、国際的に活躍するフォトグラファー。
写真だけでなく、記者、編集、翻訳などの仕事を精力的にこなす。
●株式会社 舵社・チーフフォトグラファー ●有限会社 オフィスイレブン代表取締役 ●英国王立オーシャンレーシングクラブ誌「シーホース」特約記者
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