Column

世界の海辺

第6回
タヒチの島々へ
その1

矢部 洋一 [ヤベヨウイチ]

1957年11月11日生まれ。海をフィールドとしてヨット、ボートの写真撮影を中心に、国際的に活躍するフォトグラファー。写真だけでなく、記者、編集、翻訳などの仕事を精力的にこなす。
●株式会社 舵社・チーフフォトグラファー
●有限会社 オフィスイレブン代表取締役
●英国王立オーシャンレーシングクラブ誌「シーホース」特約記者

すっかりご無沙汰をしてしまった。気が付けば今年もあと半月ほどを残すばかりになっている。更新が遅くなってしまい、ごめんなさい。

ご無沙汰の間、いろいろなところへ旅をした。その中には、ロサンゼルスからホノルルまでのおよそ4,000キロメートルをヨットで走る「トランスパック」という太平洋横断レースもあった。ベンガルⅡという名古屋のヨット・チームに同乗させて頂いたのだ。2年前に続いて2度目の参加である。全航程は、我々の船(全長50フィート)で10日間弱。もちろん昼も夜も走りっぱなしだ。このトランスパックというレースの歴史は古い。アメリカではもっとも古い外洋ヨットレースのひとつなのだ。今年はちょうどその100周年にあたり、参加艇も多く大いに盛り上がった。それほど荒れない太平洋と北東貿易風を後ろから受けての追い風のセイリング(帆走)は、レース中もそしてレースの後も充足感たっぷりの時間をクルーたちに与えてくれる。まったく、一度やったら止められないレースだ。

さて、今年は久しぶりにタヒチを再訪した。タヒチの(正確には仏領ポリネシア・ソサエティ諸島の)島々をメガヨットで巡ったのである。これは、「シードリーム」(舵社刊)という2005年の初夏に新たに創刊された雑誌の仕事だった。

メガヨットとはなにか。全長で言えば30メートルを超える大きさを持つ、大型のヨットのことを言う。ヨットというと日本では帆で走る遊びの船という意味で一般に使われているが、本来英語では大型の豪華な娯楽用の船という意味が含まれている。帆はついていてもいなくても良い。小型の舟はボートである。帆がつけばセイルボートとなり、エンジンで走るものはパワーボートとなる。

アラブの石油王や欧米の大富豪たちがプライベートで遊ぶ、動く海の別荘、つまりヨットの中でもとりわけ大きく豪勢な船、それがメガヨットだ。日本では見ることの少ないものだが、地中海などに行くとこの手の船が美しくぴかぴかに磨かれてマリーナにずらりと並んでいる。あの風景を見るたびに、彼らの計り知れない富の大きさに驚いてしまう。

私の乗ったタヒチのメガヨットは、個人の持ち物ではなく、チャーター船である。お客はホテルのように船の客室に寝泊りしながら、およそ1週間の船旅を優雅に楽しむ。船の旅で何が良いといって、どこへ行っても荷物を部屋に置きっぱなしにして、身一つで訪問地を散策できることである。島を回るには絶好、これ以上の旅の足はない。

タヒチのボラボラ島をベースにするこの船の名前は「ティア・モアナ」という。なんでも、海にすくっと美しく立っているものという意味なのだそうだ。客室数は全部で30室のみ。クルーのサービスも食事も素晴らしい。動く水上の5スターホテルだ。(つづく

2005年12月12日


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「トランスパック2005」ロサンゼルス~ホノルル太平洋横断レースのスタート

私が乗せて頂いた名古屋のベンガルⅡ、貿易風を受けて快走中

スタートから10日目、オアフ島を見る。フィニッシュまであとわずか

タヒチに浮かぶ階上の5スター、ティア・モアナ号。ボラボラ島のラグーンで

ティア・モアナ号の客室

ボラボラ島のラグーン